「起こる全てのことが糧になる」当初は外国人受け入れに反対だった法人の
前向きな変化
近年、人手不足が深刻化している介護業界で、改善策の一つとして注目されているのが、外国人介護士の採用。しかし価値観の違いもあり、雇用が難しいと考えている方もいるのではないでしょうか。
当メディア『ケア・いろ』では外国人介護士を採用している複数の施設にインタビューを実施。
今回は、2018年から受け入れを開始し、現在(2023年3月時点)はインドネシア・フィリピン・ベトナム・ネパール出身の18名の外国人スタッフが勤務している「社会福祉法人 平成福祉会」の中村さんにお話を伺いました。外国人の雇用を検討しながらも、具体的なイメージが湧きにくい…と考えている介護担当者の方は、ぜひご一読ください。
ー2018年から外国人介護士を受入れたきっかけを教えてください。
やはり人手不足です。2017年頃から、求人を出しても日本人の方はほとんど集まらない状態が続いていました。そこから理事長の意向で、外国人の方の採用に舵を切ることになりました。
ースタッフの反応はいかがでしたか?
実は、私自身が最初は否定的だったんですよ。言葉も通じないし、自分が外国人の方と働くということを想像していなかったので、本当にできるのだろうか?と不安で。
ただ、当時の状況等を考えると、この地域でやっていくのであればそれが最良の方法だと認識し、準備を進めていきました。
ー具体的にどんな準備を行なったか教えてください
定期的スタッフを集めて、なぜ外国人の採用が必要か?を説明しました。 あとは私もEPA制度(※)の現地の面接に参加したので、実際に本人とのコミュニケーションを通して感じた印象や人となりを共有したりしました。
ー面接ではどんな印象を持ちましたか?
印象的だったのは、日本人よりも積極的に自己アピールする子が多い、ということでした。国柄や本人の性格もあるとは思いますが、慣れない異国で介護の仕事を志す彼ら彼女らは、やはり覚悟が違うのかなと感じました。
ですから、人手不足解消のためというよりは、純粋に「一緒に働いてみたい」気持ちが徐々に大きくなったんです。そういう想いも素直に現場スタッフに伝え、自分と同じように不安を軽減できるよう努めました。
ー最初に外国人介護士を受け入れてからは、どのようなサポートを行いましたか?
初めはカンボジア人の女性を2人受け入れたのですが、来日したその日から問題なく暮らせるように、まずは環境づくりに気を配りました。 アパートを借りるのはもちろん、簡単な家具や食材などを揃える、Wi-Fiを繋ぐなど基本的な衣食住は整えておいた感じです。
ー仕事上でのコミュニケーションは問題ありませんでしたか?
既に現地で6ヶ月ほど研修を受けた後だったので、ある程度日本語が話せるかと思っていましたが、来日時点では2人ともあまり話せなかったですね。
なので、まずは日本人スタッフの補助をつけながら、通常の業務を担ってもらいました。外国人スタッフからすると、日本語独特の訛りや方言も伝わりづらい一因でもあったので、日本人スタッフには丁寧な言葉遣いを心がけるように伝えていました。
ー働きぶりを見た印象はどうでしたか?
振る舞いについては研修が厳しく行われているのか、最初からとても礼儀正しかったです。
物をもらったら両手で受け取る、渡す時も両手で…とか、挨拶は立ち止まってするとか、それに関しては私たちも「きちんと意識しないと」と襟を正される部分でした。
ー利用者さんとのコミュニケーションにおいて、何か感じたことはありますか?
慣れない環境に対し、順応性が高い傾向はあると思います。日本語のコミュニケーションは難しくても、距離の詰め方が上手な子が多くて。
中には「あの子のファン」だと言って、会うたびお菓子や洋服を差し入れしてくれる利用者さんや、家で特定の外国人スタッフの話を嬉しそうにする利用者さんもいるらしくて、それにもびっくりしましたね。
ー逆に、大変だったところは何かありましたか?
熱意が大きく一生懸命であるが故なのか、本当は理解できていないことを「分かりました」「大丈夫です」と言ってしまうことが当初はありました。
日本語が完璧でない中、彼女たちがどこまで利用者さんや業務に関する情報を理解できているのかを把握するのは苦労しました。
ーそれはどのように改善したのでしょう?
結局、それまでの教え方が日本人スタッフと同じだったんです。ですので、フローや教育マニュアルを改めて見直しました。本当にこれで外国人スタッフも理解できるのか、という視点が加わり、且つ理解の確認の頻度も上げたことで少しずつ改善されていきました。
結果的に施設全体のサービスの質を上げることに繋がったのでよかったです。
ー外国人介護士の受入れを行うにあたって、最も重視すべきことは何だと思いますか?
やっぱり日本語ですね。生活する上ではもちろん、日本で仕事を続ける上で必要な介護福祉士資格を取得するためにも欠かせないので。
ー介護福祉士の資格取得に向けては、どのように取り組んでいましたか?
まず、日本語の勉強は来日後すぐに始めてもらいました。最初の1年はとにかく日本語を身に着けることを重視。それから介護福祉士の教材を使ったり、オンライン授業をお願いしたりして業務時間外の学習を促していた形です。
日本人のスタッフも同じ試験を受けるので、不平等にならないよう業務時間内は仕事に集中してもらっていましたね。
ー教材や授業については何か学習プログラムを使用していたのでしょうか?
以前は月に2回・2時間ずつの授業を行うAOTSのプログラムを使っていました。授業のたびにレポートを送ってもらっていたのですが、行った講義の内容を書いているだけで、実際に受講生が理解できていたのかまでは分からない状況でした。
ー本人の自主性に任せていたのでしょうか?
そうですね。試験前は定期的にこちらから状況や進捗について聞くようにはしていましたが、やっぱり20代くらいの子たちなので、多少は遊びたい気持ちもあると思います。なので、こちらから促しても学習の習慣を身につけるのは中々難しかったように思います。
ー今は別のプログラムを使用されているのでしょうか?
今は「ZENKEN NIHONGO 介護」というプログラムを使用しています。それまで課題だった「学習管理ができる」点が導入の決め手でした。日本語教育と介護福祉士の試験対策を両立できるのはもちろんですが、誰がどのくらい勉強しているかが、レポートで分かりやすく把握できるのが非常に助かっています。
「ZENKEN NIHONGO 介護」についての詳しい詳細はこちら!
ーEPA制度を中心に利用して採用されていますが、メリットはどういったことが挙げられますか?
研修制度が整っているので、比較的レベルの高い人材を雇用できることと、介護福祉士の資格を取得するための費用を補助金で賄えるので、それがとても有難いと思います。
初期費用は一般的に60~70万円ほどかかりますが、その後の年間管理費が2万円で済むので助かっています。
ーこれまで、希望通りの人材は採用できていたのでしょうか?
EPAはこちらが選ぶというより、候補者の方に施設側が「選ばれる」という感じです。実際、私たちの時は候補者が300人いたのに対し、採用を希望する法人が900程度。そうなると倍率は3倍ですから、採用するのは中々難しかったです。
幸い、今採用している外国人スタッフは最初のマッチングで1位志望してくれた子ばかりでした。
ーEPAで受け入れた方々は、ずっと日本で働き続けたいと思っている方が多いのでしょうか?
最初のマッチング段階では、皆さん「資格を取って日本で長く働きたい」と言う人が多いです。ただ、実際に年数を重ねると、一度帰国する話にもよくなります。理由としては単純に自分の国が恋しい、だけでなく、リフレッシュのため、特に女性の場合は結婚のため…などが多いですね。
もちろん、彼ら彼女らにも母国やそれぞれの人生があるので、そう言った場合でも柔軟に対応していきたいと思っています。
ー利用する制度としては、これからもEPAを中心に考えていますか?
はい。ただ、私たちはデイサービスやグループホームなどもやっているのですが、EPAの条件上、そこでは働けないんです。あくまでも特別養護老人ホームのみでの雇用になるので。そのあたりは特定技能制度も利用するなどして色々工夫していきたいですね。
ーありがとうございます。最後に、これから外国人の採用を検討している施設の方に向けてメッセージをいただけますか?
初めて外国人を採用するときは、おそらく予想だにしなかったことがたくさん起こります。ただ、その問題は日本人だとしても起きうる可能性があるものですよね。コミュニケーションも、日本人でも伝わらないときは伝わらないですし。
なので、不安を抱いていたとしても一歩踏み出して欲しいですね。色んなことが起きると思いますが、全部スタッフのためになりますし、全部施設のためになると思います。
外国人介護士を受け入れることに対する不安は、実際に行ってみることでしか本当の意味で解消されないことを、インタビューを通して痛感しました。
壁にぶつかりながらも、外国人スタッフが活き活きと働くことができる環境を少しずつ整えてきた中村さんのお話には、受け入れにおけるヒントがたくさん詰まっていると言えます。