介護の外国人技能実習生を受け入れるにあたっては、技能実習指導員を選任しなければなりません。ここでは、技能実習指導員等による介護の技能実習生の指導体制や指導方法および指導員の仕事等について紹介していきます。
技能実習制度は1993年に創設されてから一定の成果をあげるも、受け入れ機関による関係法令や人権侵害行為等の不正行為が後を絶たず、制度の適正化と実習生保護のために必要な見直しが強く求められ、また受け入れ機関からは技能実習期間の延長を求められたため、これらの事情から2017年に技能実習法が施行されることとなりました。
技能実習法については、以下のような規定があります。
技能実習責任者は、技能実習の実施に関する責任者であり、自分以外の技能実習指導員、生活指導員やその他の技能実習に関わる職員を監督し、技能実習の進捗状況を管理したり、技能実習計画の作成に関することや、技能実習生の保護に関すること等について統括管理します。
技能実習指導員は、技能実習生が日本国内の技能習得のための実習実施者として滞在する際に、その技能実習生がきちんと技能を習得できているか、計画通りに遂行しているかなどを指導する立場の人です。技能実習生が移転すべき技能を習得するにあたり、実習実施者内で中心となって指導を行います。
技能実習指導員になるためには、実習を行う技能について5年以上の経験があることと、技能実習を行わせる事業所に所属する者である、など一定の要件があります。なお、通常は必須の資格はありませんが、介護の職種の場合は、以下のいずれかの資格を取得している必要があります。
生活指導員は、技能実習生の日本国内における生活上の留意点について指導するほか、技能実習生の生活状況を把握したり、技能実習生の相談に乗るなどして、問題の発生を未然に防止する役割を担います。技能実習指導員同様、技能実習実施者またはその常勤の役員もしくは職員のうち、技能実習を行わせる事業所に所属している者である必要があります。
技能実習生が日常生活や技能実習指導を受ける上で、日本語を理解していることが求められますが、日本語の講師など日本語の専門家だけでは専門用語の説明ができず、また技能実習指導員や生活指導員のみでは日本語の専門的知識がないため、きちんと技能実習生に理解を得ることができず、技能実習がうまく進まないような事態もあり得ます。
このような事態を防止するために、日本語学習指導者などの、日本語で適切に技能実習について指導できる者が必要になります。技能実習生を指導するには、技能実習指導員、生活指導員、日本語学習指導者の三者が密接に連携しながら行っていくことが重要になります。
複数の職員で技能実習生を指導する場合、各職員ごとに指導内容や説明が異なると、実習生は困惑して、きちんと技能を習得できなくなる恐れがあります。こういったことを防ぐため、指導の根拠を明確にした上で、指導内容や指導方法について一定のルールを決めておくことが必要です。
介護手帳やテキスト・動画などの教材の統一化を図り、指導に関わる関係者間で情報を共有することが大切です。事業所内にある物品や、医師、看護師、介護支援専門員(ケアマネジャー)などの職種名の用語も統一しておくと、実習生が困惑するのを防ぎやすくなります。
技能実習生は、指導員の指示の下で業務を行わなければなりませんが、休暇の取得やシフトの都合で、同じ指導員が常に実習生と行動を共にすることが難しい場合があります。そのため、実習生の指導体制に支障が出ないよう、指導員を複数人配置するなどの配慮が必要になります。
なおこの際、同じ業務内容にもかかわらず、指導員によって指示の内容が異なったり、他の指導員がどこまで指導指導をしたか把握していないことがないよう、指導員同士であらかじめ指示のしかたや指導の進捗状況を共有しておくことが大事です。
技能実習生の指導を特定の指導員のみに任せるのは、その指導員のみに過度な負担がかかってしまうことになります。そして、特定の指導員に過度な負担がかかる状態が続けば、実習生への指導にも支障が生じる恐れがあります。そのため、指導員以外にも、指導をサポートする職員を配置することが望ましいです。
なお、指導内容については、指導員とサポート職員とで共有し、進捗管理は指導員がするような体制にしておくことが重要になります。また、実習生からの質問や相談の対応は指導員に一本化することで回答がブレにくくなり、実習生も聞く相手が明確で迷わずにすむため、質問をしやすくなります。
指導員の選定にあたっては、管理職が自ら指導員となり、指導体制の統制を図りやすくするという考え方もある一方、日本人介護職への指導を行ってきた経験豊富な職員を指導員にしたり、実習生が相談しやすい職員を指導員に選任するという考え方もあります。
なお、例えば実習生の母国が、家父長制や年配を敬う文化を背景に持つ場合、自分よりも年少者から指導を受けることを快く思えない場面も出てくるかもしれません。そのため、実習生の母国の文化、宗教、慣習などについて知識を得ておくことが大切です。
以上のことを踏まえ、指導員は、専門的な介護技術を有しているだけでなく、人柄、雰囲気、わかりやすく話すことができるコミュニケーション能力などにも着目して選定することが大事になってきます。
外国人職員にとっては、日本は異国の地であり、生活環境の違いからホームシックや心の病気になることもあります。指導員は、外国人職員が日本の生活に早く慣れるようサポートする必要があります。また、他の職員や同僚も、外国人職員を温かく迎え入れ、教育やフォローする体制づくりが重要になります。
また、仕事における不満や疑問、日常生活の困りごとなどが発生した場合にも、指導員はいつでも相談に乗れる姿勢を取っておくことが重要で、話をよく聞き、その悩みを一緒に考え、解決することで、なんでも相談できるという信頼関係を構築することが大切です。
まだ日本語を使うことが不慣れな外国人職員とコミュニケーションを取りやすくするために、日本語をわかりやすく伝えたり、指導する際のポイントを次のとおりまとめました。外国人職員を受け持つ指導員だけでなく、同僚や他の職員にも周知するようにしましょう。
1.わかりやすい日本語で話すポイント
2.日本語を指導する際のポイント
外国人職員は、日本における介護業務は、「自立支援」を主とすることは理解していても、具体的な介護業務においては、利用者が「自分でできること」についても介助してしまう恐れがあります。利用者の「じぶんでできること」は何か、また利用者が「やらなくなっていること」は何か、これらを発見する術と、どのようにして利用者が自分でできるよう支援すべきか、ということを伝えることが必要です。
日本では、介護過程や計画に基づき、チーム全体で利用者の介護を行っています。一方、海外では個人主義で業務を遂行する国もあり、考え方に相違が生じる場合があります。そのため、同僚である介護職員や他職種と連携しながら、日本での介護の仕事は、利用者の状況を多角的に見ていくものであるということを理解させることが大切です。
日本の介護現場では、利用者のケアをチームで行うため、連係プレーを心がけなければいけません。そのため、チーム全体の円滑な業務の進行をサポートしたり、進行中の業務の「報告・連絡・相談」は欠かせないことを伝えなければなりません。
特に、国によっては、間違ったことを「恥」ととらえ、報告する前に自分で解決しようとする文化もあるため、事故やヒヤリハット等が起こった際は、必ず先に報告することが必要であることを理解してもらいましょう。
介護の外国人技能実習生を指導するにあたっては、技能実習指導員等の技能実習を管理・指導する者を選任しなければなりません。また、選任だけでなく、その配置やサポート職員の配置などについても配慮することが重要です。また、介護の外国人技能実習生を指導するにあたり、信頼関係を構築するとともに、日本での介護業務の実態について理解を得ることも大事になります。