2024年3月15日の閣議決定で、技能実習制度の廃止が決まりました。新たに「育成就労制度」が設けられます。新制度「育成就労制度」は、2027年から開始され、2030年までには技能実習制度から育成就労制度への移行が完了する予定です。ここでは、新制度である「育成就労制度」について解説します。
技能移転による国際貢献を目的とする技能実習制度を抜本的に見直し、我が国の人手不足分野における人材の育成・確保を目的した「育成就労制度」が創設されます。技能実習制度との違いを含めて、育成就労制度の概要を解説します。
出典:出入国在留管理庁/厚生労働省「育成就労制度」の概要(https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/001301676.pdf)
技能実習制度と育成就労制度は、目的が大きく異なります。技能実習制度は、発展途上国への技能移転を目的としていました。しかし実態は労働力の確保のために使われていたので、育成就労制度では、人材の育成・確保を目的とします。
在留期間は、技能実習制度が最長5年間だったのに対し、育成就労制度では原則3年間となっています。技能実習制度では認められなかった転籍も、育成就労制度では一定の条件をクリアすれば認められます。ハラスメントなどやむを得ない事情がある場合のほか、「同一受入れ機関で1年以上就労」「日本語能力試験N5等に合格」「転籍先の転籍者受け入れ率が一定以下」という条件をクリアすれば本人の意向でも転籍可能です。
また、日本語能力要件にも違いがあります。介護分野の場合、技能実習制度ではN4レベルが条件でしたが、育成就労制度では以下のように段階的な要件となります。
育成就労制度は、在留期間が原則3年となっています。特定技能「介護」を取得した場合、在留期間が最長5年間です。永住権を獲得するためには、介護福祉士の国家資格を取得しなくてはいけません。永住権獲得までの道のりは以下の通りです。
国家資格を取得しただけでは永住権を獲得できません。永住権獲得の過程では、日本語能力の向上と介護スキル習得が重要です。特に、介護福祉士の資格取得が鍵となるため、事業所でのサポートを徹底することで外国人介護士の定着率向上につながります。
就労開始前は、日本語能力試験N5相当以上の合格または認定日本語教育機関での相当講習受講が必要です。1年目終了時は、技能検定試験基礎級等と日本語能力試験N5相当以上の合格が求められます。3年間の育成期間中は、育成就労計画に基づき、特定技能1号水準の技能習得を目指すことになります。育成機関終了時に特定技能1号移行のための試験等に合格することが目標です。
育成就労制度は、外国人労働者の人権保護と権利向上を重視しています。一定の条件下で転職の自由が認められ、労働者の選択肢が広がりました。また、日本人労働者と同等以上の待遇を保証することで、賃金や労働条件の公平性を確保しています。
人権侵害を防ぐための施策が監理支援機関による定期的な監査と指導です。問題の早期発見と解決を図ります。さらに、日本語教育の強化や技能向上の機会提供により、キャリアアップを支援し、労働者の将来的な成長を促進します。
さまざまな噂が飛び交う技能実習制度ですが、実際の技能実習生の推移を見てきましょう。厚生労働省によると、外国人技能実習生は、平成24年は151,482人、平成25年は155,214人、平成26年は167,641人と徐々に増加しており、令和2年には378,200人とおよそ1.5倍に増加しています。介護業界を見ていくと、技能実習生の受け入れを行う施設は、令和2年10月時点で18,034件、令和3年3月時点で22,858件と、こちらも増加傾向にあります。数字だけを見ると、制度が施行されてから、来日する外国人が増えていることがわかります。
数字だけ見ると毎年増加している技能実習制度ですが、2023年5月現在、廃止に向けた動きが本格的に進んでいます。しかし、人手不足を抱える企業は、外国人材に頼らざるを得ないのが事実。
そんな問題の多い技能実習制度ですが、有識者会議では2023年4月に技能実習制度の廃止を盛り込んだ中間報告書を決定しました。新興国への技術移転による国際貢献のみを目的に掲げるのをやめ、新たに人材の確保と育成を目的とする新制度をつくる予定です。さらに、これまで原則禁止であった技能実習生の「転職」も可能にし、中長期的に活躍できる人材の確保につなげていきたい見込みです。
もともと技能実習制度は、発展途上国へ技能を移転することを目的とした「国際貢献」が背景にあります。しかしながら、実際には人手不足を解消するために利用する事業者が多いこと、さらに外国人技能実習生に対する給与未払いや、長時間労働を強いる企業が存在することが問題視されています。
なぜこのようなトラブルに発展するのがというと、技能実習制度は原則転職ができないからです。転職リスクのない人材を受け入れる側が労働条件を改善せず、技能実習生の働きやすさを無視している可能性があるのです。その結果、技能実習生が失踪してしまうトラブルが後を絶ちません。この状況を見て、技能実習制度に対する疑問の声が上がっています。
このようなトラブルに対応すべく設置されているのが、企業に実習生を仲介する「監理団体」です。技能実習制度は、受け入れ施設へ指導を行う「監理団体」を設置する必要があり、いくつかある在留資格のなかでも特徴的なポイントだといえます。
しかし、企業と実習生を仲介する「監理団体」の支援が十分でなく、パワハラや長時間労働など人権侵害にあたる行為に対する適切な措置がとれていないのが現状。実習生のSOSが届かないこのシステムについても問題視されており、技能実習制度の廃止意見につながっていると考えられています。
技能実習制度が廃止された場合、人手不足を抱える企業にとって貴重な人材を失う痛手となります。実習生を雇う場合、渡航費や日本語習得の教育費を負担することで、実際には日本人を雇うより費用がかかることがあります。コストがかかるとわかっていても、人手不足を抱える企業は技能実習生に頼らざるを得ないのが現状。
新しい制度に移行し転籍(転職)緩和が実現された場合、育成にかかるコストだけがかさみ、社内に人材が定着しないというリスクもあります。そのため、これから技能実習生の受け入れを検討する会社側は、働き手の流出リスクに備える必要があるでしょう。また、外国人材が働きやすい環境を整備するという点についても、今後の動向に注目です。
技能実習制度は廃止され、2027年より育成就労制度が開始します。育成就労制度は、外国人材の育成と人材確保を目的としており、介護業界においては、育成就労制度から特定技能1号を目指す制度です。長く活躍してもらうためには、キャリアアップ支援を充実させ、国家資格取得のサポートを行いましょう。
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