人手不足が慢性化している介護業界ですが、中でも特に人手不足が深刻な業種が訪問介護。国は、人材の補充が急務となっている訪問介護において、外国人介護士へ門戸を広げる議論を始めています。
ここでは、外国人介護士が訪問介護を行うことの課題、2024年現在の制度で外国人介護士が担当できる介護業務の種類、訪問介護の将来像などについて解説しています。
公益財団法人介護労働安定センターが令和3年度に行ったアンケート調査によると、「介護員が不足している」と回答した訪問介護事業所は全体の約80.6%。業界全体の約63%という数字と比較すると、訪問介護事業所は特に著しい人材不足に陥っていることが分かります(※)。
2024年現在、「経済連携協定(EPA)」と「介護」の在留資格を持つ外国人介護士については訪問介護が解禁されていますが、技能実習・特定技能の在留資格しか持たない外国人介護士には、訪問介護への就業が認められていません。
訪問介護の人材不足が著しく深刻化する中、2023年7月、国は技能実習・特定技能の在留資格を持つ外国人介護士の訪問介護の議論をスタート。訪問介護の人材不足を少しでも緩和させる結論となるかどうか、議論の行方が注目されています。
ただし現実として、外国人介護士の訪問介護には多くの課題があることも事実。中でも特に課題とされている2点を見ておきましょう。
多くの訪問介護では、1人の利用者に対して1人の介護士が訪問する形で行われます。日本語の堪能な外国人介護士なら問題ありませんが、日本語でのコミュニケーションに不安のある外国人介護士には、職務上の各種リスクが懸念されます。
一般に訪問介護は、介護士が1人で車を運転して利用者宅を訪問する形となりますが、介護に従事する在留外国人の中には、日本で運転できる自動車免許を取得していない人が少なくありません。そのため、仮に外国人介護士の訪問介護が解禁されたとしても、車を運転できる日本人を同行させたり自動車教習所へ通わせたりする必要が生じ、事業所の費用負担が増加する可能性もあります。
2024年1月現在、現行制度で外国人介護士が働ける主な高齢者介護事業所には、特別養護老人ホーム、グループホーム、デイサービス、老人保健施設、有料老人ホーム、介護療養型施設、障碍者支援施設、地域密着型施設などがあります。
訪問介護については、「経済連携協定(EPA)」と「介護」の在留資格を持つ人材のみが就業可能。それ以外の在留資格(特定技能や技能実習)で来日中の外国人介護士は、訪問介護の業務に就くことができません。
外国人介護士における訪問介護の将来像について、予断は避けるべきかもしれません。しかしながら、法務省による技能実習制度・特定技能生徒に関する有識者会議を受けて厚生労働省が外国人介護士の訪問介護解禁を議論し始めた経緯に鑑みると、「技能実習・特定技能による外国人介護士の訪問介護は一切認めない」という結論が導き出されることはありえない、と考えるのが妥当です。
日本滞在歴や日本語レベル、移動手段などの一部条件付きで、将来、在留資格を問わず外国人介護士の訪問介護は解禁される流れとなるのではないでしょうか。
外国人介護士への需要の高まりは、日本だけで見られるものではありません。介護の巨大市場と言われる中国、日本より賃金の高いオーストラリア、外国人材の就業のハードルが低い台湾など、日本以外の国々でも外国人介護士の獲得に向けて動き出しています。
制度的な門戸を解放しただけで外国人介護士が多く集まるわけではない点を理解し、まずは各事業所単位において、外国人介護士にとっての魅力ある職場づくりや教育システムの完備に励みましょう。
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