「とにかく何度も伝えるようにした」心地よく働いてもらうために行なった
事前準備
近年、人手不足が深刻化している介護業界では、改善策の一つとして外国人介護士の雇用が注目されています。
当メディア『ケア・いろ』では外国人介護士を採用している複数の施設にインタビューを実施。 今回は、2017年頃から外国人介護士採用を開始し、現在(2023年3月時点)はインドネシア・フィリピン出身の外国人スタッフ16名が勤務している「社会福祉法人 五霞愛隣会」の小林さんに、受け入れにおける苦労や定着までのプロセスについてお伺いしました。 受け入れや雇用のイメージが湧きにくい…と考えている介護担当者の方は、ぜひご覧ください。
ー外国人介護人材を受け入れることになったきっかけを教えてください。
日本人介護士の採用が難しい状況が続いていたため、2017年から技能実習制度と合わせてEPA制度を活用して採用活動を始めました。
ー日本人ではなく、外国人を採用すると決めたのはなぜでしょうか?
私自身、いずれ日本人だけでは立ち行かなくなるような気がしていました。加えて、ちょうど2019年から新たな在留資格「特定技能」が始まると知り、外国人の採用も加速すると思ったので、今のうちから受け入れを行なって備えておこうという気持ちがありました。
EPAは国同士で決められた協定に基づく制度で、フォローや研修体制が整っているため、慣れていなくても利用しやすいと考えました。
ー当初、施設内のスタッフの方々はどのような反応でしたか?
最初は、スタッフ皆から戸惑いの反応がありました。ただ、EPA制度は現地で研修を行うため、半年間の準備期間がありました。その間に定期的に勉強会を開いてEPA制度の仕組みや決まり事、実習生が生まれ育った国などについて説明する機会を設けました。
おかげで、来日時には職員の理解度は大きく変わっていましたね。スタッフとの認識をすり合わせることはとても大切ですし、絶対必要なことだと思います。
ー施設の利用者の方やご家族にも受け入れの説明はされましたか?
決まってからは最初にお伝えしました。以前、ご家族の方が面会に来ていただいた時も、EPAやインドネシアの職員もいましたが、問題はありませんでしたね。
ーEPA制度では、現地に行って候補生と直接面接をされたそうですが、どこを重点的に見たか教えてください。
もちろん人柄やコミュニケーション力も大事ですが、どれだけ日本に愛着を持っているのか、どうして日本に来たいのかという点を重視していました。
出稼ぎに行きたいという人もいれば、日本のアニメやJリーグなどのカルチャーに興味があるからという人もいました。その中でもやっぱり、日本が好きという気持ちが強い人の方が、後々続けてくれそうだなと感じたんです。
実際、当時採用したスタッフは施設に来てから4年ほどになります。私たちとしては3年働いてもらえるだけでも助かるので、本当にありがたいです。
ー技能実習制度や特定技能制度と比較してEPAの方が良いと思う点はありますか?
EPAでは、看護師の学校に通っていた子、看護師を経験していた子などがいるため、即戦力となれる人材が多いと思います。 学習面で言うと、EPAは、毎月1回のテストや国家試験対策、就労時間内に1時間の勉強時間があります。そのため、勉強してもらいやすい環境が整っていますね。
また、プラスでかかる費用は国から補助金が出るので、積極的に活用できます。一方で特定技能や技能実習の子は、現場で働きながら介護技術を学ぶため、勉強の時間は少ないかもしれません。
ー採用面でのメリットは何かありましたか?
EPAで採用したスタッフから別の候補生を紹介してもらったことですね。制度に限らず、日本にいる同じ国出身同士の人たちの繋がりは深いです。いい情報も悪い情報もすぐ伝わるので、常に「うちがいいよ!」と言える体制を整えることは意識していました。
すると、「後輩が今年のEPA候補生にいるのですが、採用してもらえますか?」と繋げてもらうことができました。倍率が高くマッチングは年々難しくなっているので、このような繋がりは本当に助かります。
ー初めて受け入れた外国人介護士の方の働きぶりはどうでしたか?
最初は、インドネシアの女の子が2名来てくれました。仕事の遅刻や早退がなく、とても真面目に働いてくれました。他のスタッフからは「仕事の覚えが早い」と評価されていたので、大きな不安はありませんでしたね。
ー働き始めて間もない時は、どのように仕事をサポートしていたのでしょうか?
まずは、基本的な日本語と介護で使う言葉の勉強、介護技術の練習が中心でした。1〜2ヶ月は日勤、あとは早番か遅番に固定して仕事を覚えてもらっていましたね。
最初から仕事を詰め込まず、一つのチーム体系を覚えてもらうことをし、徐々に他の経験ができるようにサポートしました。
まだ日本語がそれほど理解できないうちは、夜勤や遅番のシフトは入れないようにして、必ず日本人が隣にいる状況を作るような体制にしていましたね。
ーそこから夜勤はどのくらいから入られたのでしょう?
私としては1年~1年半かけて夜勤に入れるようになったらいいかなと思っていたんですが、元々看護師の経験があり、覚えが早かったこともあって、10か月後くらいには2人とも夜勤に入っていました。
ー外国人の受け入れによって、これまでの制度を見直すきっかけやプラスの影響になったことはありますか?
日本人向けだった研修体系を、外国人相手でも丁寧に教えていけるようにする必要があったので、教育マニュアルを見直すきっかけになりました。
他にも、異文化が入ったことで、インドネシア料理を振る舞ってもらうイベントを行うなど、施設内の行事も華やかになりました。
ー反対にスタッフや利用者の方とのコミュニケーションで、苦労した点はありましたか?
スタッフ間とのやり取りで、口癖のように「分かった」と言ってしまうことは、今でもたまにあります。実は分かっていなかったという場面が多々あり、最初は困りました。なので、本当に理解できているか確認するために、言ったことを復唱してもらったり、どう分かったのかをもう一度聞き直したりしています。
ー外国人の実習生たちは前向きに仕事や勉強にも取り組んでいましたか?
やはり、自分でモチベーションを保ちながら学べる子もいればそうでない子もいます。それでも、「勉強して国家試験に合格したい」「介護福祉士になったら家族を日本に連れて来たい」などの思いがあるスタッフは、モチベーションを高め続けられていると感じます。
ー外国人の雇用にあたって、重視すべきことは何だと思いますか?
日本語の理解力ですね。日々のコミュニケーションにおいてももちろんですが、利用者の方が怪我や転倒、発熱したときなど、自分で対応する必要がある場面は多々あります。
ある意味命を預かっている仕事でもあるので、どこまで日本語が理解できるのかをやはり大切にしたいですね。
ーでは、施設で働く日本人の職員に対しては、どのようなことが必要だと思いますか?
やはり他国の文化などの理解でしょうか。たとえばイスラム教徒であれば、宗教や文化、食べてはいけないもの、ヒジャブをつける理由、お祈りの時間の回数、ラマダンという断食の期間があるなど、全ての情報を最初のうちに伝えておくことが大事ですね。
そのような外国の文化を尊重することは絶対に必要ですし、日本人スタッフの異文化理解がないと働くことは難しいと思います。
ー単に「こういう習慣がある」だけではなく、どうしてそのような行いをしているのか詳しく伝えることが大切なんですね。
そうですね。その国の表面上のことだけでなく、何を大事にする性格なのか、どんな考えを持っているのか、という内面的なところまで理解してもらえるよう、全てのスタッフに細かく説明していました。説明すればするほど、実際に来日した時のギャップは抑えられると思います。
ー今後、より魅力的な環境を整えるために課題となる部分はありますか?
当施設はポジションが固定されていることが一つの課題ですね。相談員やユニットリーダー、介護主任などのポジションは、施設の開設当初から長く働いているスタッフが就いているので、外国人のスタッフでも担当できる、新しいポジションの創設が必要かもしれません。
ー今後の外国人介護士の採用方針を教えてください。
目標として定めているものはありませんが、普段の業務に支障が出ないようにしたいですね。当施設は全部で100床あるので、夜勤に5名必要になります。その5名全員が外国人だった場合は、多少不安がありますね。緊急時の対応においてある程度は任せられますが、そこに日本人が数名いないと、本人たちも不安になると思うんです。
そういった懸念もあり、毎年たくさん増やしていくわけではなく、施設の状況を鑑みてある程度の人数に留めておくことも大切かと思います。
もちろん、採用自体は続けるつもりです。インドネシア出身のスタッフを採用してイベントが華やかになったように、良い影響はたくさんあると思うので、今後は様々な国の人材を採用できればいいなと思っています。
小林さんのお話からは、外国人スタッフを受け入れるにあたっての事前準備の大切さが伝わってきました。制度によっては十分なサポートや準備期間が設けられているものもあるので、これから外国人介護士の採用を検討している方は、難しく考えず情報収集から始めてみてはいかがでしょうか。