2024年度の介護報酬改定率は1.59%で決着しました。介護職員の処遇改善加算分を差し引けば、介護事業所への実質的配分率は0.61%。期待外れと感じた事業主の方も多かったのではないでしょうか。
ここでは、これまでの介護報酬改定率の推移や20204年度改定のポイント、改定率の今後の展望などについて解説しています。
介護報酬改定率とは、3年に1度の頻度で厚生労働省が決定する介護報酬の「上げ幅・下げ幅」のこと。単純に上げ幅が高いほど、同じサービスを提供した際の事業所の収入も増加するため、高齢化が進んで介護施設が増加している現代、改定率が決まるときにはマスコミも大きく注目します。
事業所にとって、改定率が上がることは喜ばしいことなのですが、改定率アップによる増収分は、必ずしも介護職員の給与として還元されるとは限りません。
介護報酬改定率について、2003年度からの推移は次の通りです。
2003年度…▲2.3%
2006年度…▲0.5%(▲2.4%) ※1
2009年度…3.0%
2012年度…1.2%
2015年度…▲2.27%
2018年度…0.54%
2021年度…0.70% ※2
2024年度…1.59%
上記はあくまでも介護報酬全体の平均値となります。そのため、マイナスの年度であっても厚労省の方針により、特定の対象施設の介護報酬はプラスの場合があります。
たとえば、2023年度は全体として「マイナス2.3%」ですが、同年度の特別養護老人ホームなどの施設サービスは平均「プラス4%」となっています。
※1:( )内は2005年度改定を含めた割合
※2:2021年度改定率のうち0.05%は、新型コロナウイルス感染症対応のための特例評価
厚生労働省は、人口構造や社会経済状況の変化を踏まえ、5つの大きなテーマの実現に向けて、令和6年の介護報酬改定を決めました。テーマ別に改定のポイントを抜粋します。
なお、以下の項目の詳細については、厚生労働省老健局が公表している次の資料をご確認ください。
>>厚生労働省老健局|令和6年度介護報酬改定の主な事項について
認知症の方や単身高齢者、医療ニーズが高い中重度の高齢者を含め、質の高いケアマネジメントや必要なサービスが切れ目なく提供されるよう、地域の実情に応じた柔軟かつ効率的な取組を推進
1. 質の高い公正中立なケアマネジメント
2. 地域の実情に応じた柔軟かつ効率的な取組
3. 医療と介護の連携の推進
4. 看取りへの対応強化
5. 感染症や災害への対応力向上
6. 高齢者虐待防止の推進
7. 認知症の対応力向上
8. 福祉用具貸与・特定福祉用具販売の見直し
高齢者の自立支援・重度化防止という制度の趣旨に沿い、多職種連携やデータの活用等を推進
1. リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の一体的取組等
2. 自立支援・重度化防止に係る取組の推進
3. LIFEを活用した質の高い介護
介護人材不足の中で、更なる介護サービスの質の向上を図るため、処遇改善や生産性向上による職場環境の改善に向けた先進的な取組を推進
1. 介護職員の処遇改善
2. 生産性の向上等を通じた働きやすい職場環境づくり
3. 効率的なサービス提供の推進
介護保険制度の安定性・持続可能性を高め、全ての世代にとって安心できる制度を構築
1. 評価の適正化・重点化
2. 報酬の整理・簡素化
1. 「書面掲示」規制の見直し
2. 通所系サービスにおける送迎に係る取扱いの明確化
3. 基準費用額(居住費)の見直し
4. 地域区分
2024年度の介護報酬改定率は1.59%で決着しました。この中には介護職員の処遇改善加算が0.98%上乗せされているため、実質的に介護事業所へ配分される割合は差し引き0.61%となります。
約3年間のコロナ禍、および昨今の物価高で体力を消耗しつつある事業所にとって、今回の決定は期待に反した厳しいものとなったかもしれません。
当初、2024年の介護報酬改定率の決定においては、2~3%程度の引き上げになるとの憶測もありました。その財源として、2割負担の対象者拡大が検討されていたとも言われます。
しかしながら、ふたを開けてみれば、2割負担の対象者は据え置き。介護報酬改定率は期待値より低い結果となりました。
介護報酬改定率の将来推移を推測することは困難ですが、その鍵を握るのは財源に他なりません。
従来の「介護保険制度内」という枠の中だけで財源の議論している以上、2024年度のように「右を上げたら左が下がる」というシーソーのような関係に留まります。簡単に言えば、誰かが得をして誰かが損をする、というシンプルな関係です。このままでは、いつまで経っても全体的な向上が見えてきません。
将来的な改定率の推移については、介護保険制度の枠を出て国民に理解を求める形になる可能性もあるのではないでしょうか。
高齢化社会における「高齢者」は、団塊世代だけではありません。団塊世代の子供たち、つまり団塊ジュニア世代の人口も約1000万人と団塊世代に肉薄しています。仮にこの先も医療の進歩が続くならば、将来的には団塊世代より団塊ジュニア世代の高齢者人口のほうが多くなる可能性すらあります。結果、要介護人口も多くなるかもしれません。
介護報酬改定率について、抜本的な施策が議論される日は近いのではないでしょうか。