介護ビジネスにおいてきちんと利益を出して事業を継続するには介護報酬(介護保険制度)の改定をしっかりと押さえておく必要があります。この介護報酬(介護保険制度)は3年に1度改定されますが、直近では2024年度に改訂が実施されたことから次回は2027年度になります。このページでは2024年度に実施された介護報酬(介護保険制度)の改定におけるポイントや今後の展望、介護事業者が知っておくべきことなどについて解説します。
2024年度の改定は人口構造や社会経済状況の変化を踏まえた基本視点を設定したうえで介護報酬の改定が実施されました。医療ニーズ対応の強化、リハビリ・栄養管理推進、認知症ケア強化、虐待防止、職員処遇改善などが盛り込まれています。
出典:https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001195261.pdf
出典:https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001180683.pdf
訪問介護における基本報酬は軒並みマイナス改定となっており、身体介護・生活援助・通院等乗降介助のいずれも改定後の単位数の方が少なくなっています。なお、基本報酬改定に際して発表されている厚生労働省の資料においては、処遇改善加算における加算率を14.5%~24.5%と高く設定した点が強調されています。
通所介護(デイサービス)における基本報酬改定のポイントとしては、全要介護度で基本報酬が引き上げられた点が挙げられます。通常規模型・大型規模Ⅰ・大型規模Ⅱのいずれでも引き上げとなり、改定前後で3単位~6単位程度のプラスとなっています。
2024年度の介護報酬改定においては、介護老人福祉施設(特養)と地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護の基本報酬がいずれの分類でも大幅に引き上げられました。介護福祉施設サービス費やユニット型介護福祉施設サービス費、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護費、ユニット型地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護費のそれぞれで16単位~29単位の引き上げになるなど大幅なプラス改定となっています。
2024年度の介護報酬改定においては認知症高齢者への個別ケアを充実させた事業所が対象となる「認知症ケア加算」や在宅復帰を積極的に支援する事業所への新たな評価として「在宅復帰支援加算」などが新設されました。認知症高齢者の増加や介護業界における「働き方改革」の促進など、業界的な課題・問題を解消するための制度改定であるといえるでしょう。
人材の量的な不足が課題となっている介護業界ですが、提供するケア・サービスの質にも注意をする必要があります。そのため2024年度の介護報酬(介護保険制度)の改定においては専門的ケアを提供するための定期的なスタッフ教育としてスタッフ研修が義務化されることとなりました。
介護業界においては働き手不足という背景もあり、ICTの導入やDX化の推進への取り組みが強化されています。具体的にはケア記録のデジタル化や共有化を行った事業所への加算をはじめ、ICTを活用したリアルタイム情報共有の評価などに取り組まれています。進みゆく少子高齢化社会という外的環境を踏まえ、いかに効率的な経営に取り組めるかが求められています。
少子高齢化に伴い利用者と介護事業者の需給バランスが崩れるという問題だけでなく、パンデミック時における集団感染なども社会問題になりかねないことから、訪問介護や看護におけるモニタリング機能の活用として「遠隔ケア」の推進も注力されています。医療機関とのデータ連携に基づく新たな加算も導入されるなど、仕組み化を前提として進められています。
介護業界は特に限られた人員リソースをどう配置するかが非常に重要です。こういった人員体制の整備や勤怠管理におけるシステム導入を行った場合にも評価される仕組みが作られています。具体的にはシフト管理や勤怠管理の自動化システムを導入した場合などがあります。
介護業界に限らず「リスクのある仕事は機械に任せる」という取り組みが進められています。介護業界の場合には介護ロボットやセンサー技術を導入することで業務負担軽減に取り組んだ事業者が適用を受けられる加算も出てきています。加算による収益増と人員効率化が合わさるとより収益性は高まるでしょう。
介護報酬(介護保険制度)の改定においては「介護報酬改定率」という言葉が散見されます。これは、3年ごとの改定で生じる介護報酬の上げ幅や下げ幅を指します。この改定率がプラスになるのかマイナスになるのか、またその幅がどの程度かについては、業界内外で非常に高い関心を集めています。なお、過去の改定率は以下のように推移しています。
2003年度…▲2.3%
2006年度…▲0.5%(▲2.4%) ※1
2009年度…3.0%
2012年度…1.2%
2015年度…▲2.27%
2018年度…0.54%
2021年度…0.70% ※2
2024年度…1.59%
上記はあくまでも介護報酬全体の平均値となります。そのため、マイナスの年度であっても厚労省の方針により、特定の対象施設の介護報酬はプラスの場合があります。
たとえば、2023年度は全体として「マイナス2.3%」ですが、同年度の特別養護老人ホームなどの施設サービスは平均「プラス4%」となっています。
※1:( )内は2005年度改定を含めた割合
※2:2021年度改定率のうち0.05%は、新型コロナウイルス感染症対応のための特例評価
2024年度の介護報酬改定率は1.59%で決着しました。この中には介護職員の処遇改善加算が0.98%上乗せされているため、実質的に介護事業所へ配分される割合は差し引き0.61%となります。
約3年間のコロナ禍、および昨今の物価高で体力を消耗しつつある事業所にとって、今回の決定は期待に反した厳しいものとなったかもしれません。
当初、2024年の介護報酬改定率の決定においては、2~3%程度の引き上げになるとの憶測もありました。その財源として、2割負担の対象者拡大が検討されていたとも言われます。
しかしながら、ふたを開けてみれば、2割負担の対象者は据え置き。介護報酬改定率は期待値より低い結果となりました。
介護報酬改定率の将来推移を推測することは困難ですが、その鍵を握るのは財源に他なりません。
従来の「介護保険制度内」という枠の中だけで財源の議論している以上、2024年度のように「右を上げたら左が下がる」というシーソーのような関係に留まります。簡単に言えば、誰かが得をして誰かが損をする、というシンプルな関係です。このままでは、いつまで経っても全体的な向上が見えてきません。
将来的な改定率の推移については、介護保険制度の枠を出て国民に理解を求める形になる可能性もあるのではないでしょうか。
高齢化社会における「高齢者」は、団塊世代だけではありません。団塊世代の子供たち、つまり団塊ジュニア世代の人口も約1000万人と団塊世代に肉薄しています。仮にこの先も医療の進歩が続くならば、将来的には団塊世代より団塊ジュニア世代の高齢者人口のほうが多くなる可能性すらあります。結果、要介護人口も多くなるかもしれません。
介護報酬改定率について、抜本的な施策が議論される日は近いのではないでしょうか。