EPAは在留資格の一つであり、「経済連携協定」に基づきインドネシア・フィリピン・べとなくから介護福祉士候補者を受け入れています。この「介護福祉士候補者」とは、日本国において介護福祉士の資格取得を目指す外国人の方をいいます。
EPAは対象となっている国同士の連携強化について経済活動を通じて図る目的のものであり、介護分野においてはフィリピン・インドネシア・ベトナムとの間で受け入れを行っています。したがって「介護人材の不足を解消する」という目的の措置ではありません。なお、日本においては「国際厚生事業団(JICWELS)」が唯一の受入れ調整機関となっており、各国における候補者になるためには言語能力や技術に関する条件を満たす必要があるほか、日本語研修や業務研修なども受けなければいけません。
EPA介護福祉士候補生が就労可能な施設は、特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護療養型医療施設、認知症グループホーム、特定施設、通所介護、通所リハビリ、認知症デイサービス、ショートステイの9種類に限られます。訪問系のサービスに従事できるのは在留資格「介護」のみで、EPAは対象外です。
夜勤の可否は、介護福祉士の資格を取得しているかどうかによります。有資格者には夜勤の制約がありませんが、未取得の場合は雇用後6カ月以上で、N2以上の日本語能力が必要です。
また、介護福祉士候補生の在留目的は、4年以内に国家資格を取得することなので、業務と並行して受験対策を行う必要があります。具体的には、週に1回の試験対策教室と、勤務時間内学習の時間を確保しなくてはいけません。
EPA介護福祉士候補者は入国後実務経験を3年以上積む必要があります。その後筆記試験を受ける必要があるのですが、EPA介護福祉士候補者で令和6年5月以前入国者の方に関しては、介護福祉士資格の登録を申請するまでに「介護過程Ⅲ」を受講したうえで、登録申請時に「介護過程Ⅲ修了証明書」を提出する必要があります。しかし令和6年6月以降に入国した方はこのプロセスを踏む必要がありませんので、そのまま筆記試験に合格することで介護福祉士資格の取得・登録ができます。
EPA制度で介護福祉候補者になるためには、各国における要件を満たす必要がありますが、それぞれの国によってその要件は異なります。下記に要件を記載しますが、これに加えて日本語の研修を受けたうえで日本語能力試験を受験し、一定の成績を収めてはじめて日本に入国する事ができます。
高等教育機関(3年以上)卒業+インドネシア政府による介護士認定、 またはインドネシアの看護学校(3年以上)卒業
4年制大学卒業+フィリピン政府による介護士認定、 またはフィリピンの看護学校(学士・4年)卒業
3年制または4年制の看護過程修了
EPA介護福祉士候補生に求められる日本語能力は、送り出し国によって異なります。具体的には、インドネシアとフィリピンがN5程度、ベトナムはN3程度。N3は「日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる」、N5は「基本的な日本語をある程度理解することができる」レベルです。
ただし、これは入国要件です。入国後は2カ月半から半年に及ぶ研修を受けることになっていて、2019年度の実績によると、就労開始時には候補生のおよそ9割(インドネシア、フィリピン共)が、N3相当を満たしていました。
技能実習生や特定技能1号の入国要件がN4程度であることを考えると、EPA候補生の日本語能力は比較的高いといえるでしょう。
厚生労働省によりますと、EPAの介護福祉士候補生の受け入れ数は、制度が始まった2008年度には104人でした。受入数は増加を続け、2018年度には最高となる773人を記録。その後はコロナ禍の影響もあり、2021年度にはやや減って655人となっています。
国別に見ると、多い順にインドネシア、フィリピン、ベトナムとなっており、制度が開始された時期が早いほど受入数が多いことがわかります。
2021年度までの累計受入数は、6,417人でした。
EPA介護福祉士候補生は、自国で介護や看護を学んでいることが前提条件となっていますが、日本語能力のハードルは低めに設定されています。そのため、入国後には2カ月半から半年をかけて、日本語と介護の研修を受けることになります。
研修を終えると、介護施設と雇用・研修の契約を締結。OJTで働きながら介護を学び、介護福祉士の資格取得を目指します。
入国から4年目には、国家試験が控えています。合格すれば、在留資格「介護」に切り替えて、永続的な就労が可能。不合格の場合は帰国しなくてはいけませんが、在留資格を特定技能1号(在留期間最長5年)に変更して、引き続き働きながら資格の取得を目指す道もあります。
外国人介護人材を受け入れることができる施設は「児童福祉法関係の施設・事業」「障害者総合支援法関係の施設・事業」「老人福祉法・介護保険法関係の施設・事業」「障害者総合支援法関係の施設事業」「生活保護法関連の施設」「その他の社会福祉施設等」「病院又は診療所」と定められています。しかしながらEPAの場合は基本的に訪問系サービスの業務を行わせることができませんので、訪問系サービスのみの提供を行っている事業所では受け入れることができません。
インドネシアとフィリピンからの受け入れの流れとしては、要件を満たす候補者とのマッチングの後、訪日前日本語研修を6か月間受けることになります。そのうえで日本語能力試験を受験し、インドネシアはN4程度以上・フィリピンはN5程度以上の成績を経て入国に至ります。その後も訪日後日本語研修を6か月間受け、受け入れ施設で雇用契約に基づいて就労・研修を行います。
ベトナムからの候補者受け入れは訪日前日本語研修を12か月間受け、日本語能力試験でN3以上の成績を残した方とのマッチングを行う形になります。その後は日本へ入国し、訪日後日本語研修を約2.5か月間受けてから受け入れ施設で雇用契約に基づいた就労・研修を行うことになります。
EPAにおける日本側の受け入れ調整機関は「国際厚生事業団」であり、受け入れ希望期間からの求人募集から手続きの流れが始まります。受け入れ希望期間側の要件確認を経て、相手側国の送り出し機関でのEPA候補者の募集・選定が行われることになります。そして選定したEPA候補者リストを国際厚生事業団に提供し、現地面接や合同説明会などの選考フェーズへと進んでいきます。この選考フェーズでは受け入れ希望機関に代わってすべての候補者に対して現地面接を実施するほか、受け入れ希望機関が希望する場合には現地に赴いて候補者と直接対面できる合同説明会も実施しています。
求人情報をEPA候補者に提供した後に就労意向を確認し、受け入れ希望機関に求職者情報と併せて提供を行います。受け入れ意向の回収後はマッチングへと移り、必要に応じて2次マッチングまで実施されます。最終的には受け入れ希望機関とEPA候補者双方の受け入れ・就労意向を確認し、雇用契約を締結します。
EPA介護福祉士候補生の制度は、経済連携協定に基づいており、相手国との経済的な連携の強化を目的として、公的な枠組みで特定的に実施されています。
候補生を募集し、介護施設とのマッチングを行なっているのは、公益社団法人の国際厚生事業団(JICWELS)のみ。公的機関のみが運営しており、運用実績も10年以上と、制度そのものの信頼性が高いことが特徴です。
公的な支援が手厚いことは、受入側の介護施設にとっては大きな安心材料となります。
介護福祉士候補生は、インドネシア、フィリピン、ベトナムで介護の教育を受けた人に限られます。国家資格である介護福祉士の取得を前提として入国しており、介護の知識やスキルを持つ質の高い人材を確保できることが、大きなメリットとなります。
この資格による在留期間は4年間ですが、資格を取得すれば在留資格「介護」に変更し、永続的な就労が可能です。資格取得後は就労条件の制限がなくなるため、訪問サービスも手掛ける介護施設にとってはメリットが大きいでしょう。
介護福祉士候補生の入国目的は国家資格の取得であって、人材不足への対応ではありません。資格取得後は日本人の介護福祉士と変わらない就労が期待できますが、それまでは試験対策や学習の時間を確保し、サポートしていく必要があります。
また、受け入れ可能な介護施設は、JICSWELSの基準をクリアして認定を受けた施設に限られます。そのため、ほかの制度と比較して採用のハードルは高くなっています。
人材不足に対応するためにはさまざまな手段を講じる必要がありますが、外国人労働者受け入れもその選択肢の一つとして挙げられます。しかしEPAの趣旨は人材不足の解消ではありませんので、それぞれの制度の概要や趣旨を理解・把握したうえで適切な対応を図りましょう。このサイトでは介護分野における外国人労働者の受け入れや在留資格に関するさまざまな情報を発信しています。ぜひチェックして参考にしてください。